最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)719号 判決 1948年11月09日
主文
原判決を破毀する。
本件を大阪高等裁判所に差戻す。
理由
被告人及び辯護人佐藤六郎の上告趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。
辯護人佐藤六郎の上告趣意について。
記録を調べてみると、被告人と辯護人河井栄藏とが連署した辯護人選任屆が差出されて原審は昭和二三年四月一六日にこれを受理して本件記録に編綴してあること所論のとおりである。たゞ右の辯護人選任屆には被告人に對する「收賄事件」と表示されているので右の辯護人選任屆は(一)被告人に對する他の事件の辯護人選任屆が誤って本件記録中に綴り込まれたものか(二)本件の辯護人選任屆ではあるが事件名の表示を誤記したものかは不明である。ともかくも本件には被告人に對する強盗罪が起訴されているのであるから刑事訴訟法第三三四條により辯護人なくしては開廷することのできない事件であることは言うまでもない。それ故、前記の辯護人選任屆が(一)の場合のものであるならば原審の裁判長は職權で辯護人を附けて公判期日に召喚しなければならないし(二)の場合であるならば被告人の選任した辯護人河井栄藏を公判期日に召喚しなければならない。しかるに、記録によると原審は被告人の辯護人を公判期日に召喚した形跡もなく、昭和二三年四月一六日の第一回公判期日にも同月二一日の第二回公判期日にも被告人の辯護人なくして開廷し事件の審理を進行して原判決を宣告している。もっとも原審公判調書によると、原審共同被告人小山政之の辯護人であった奥田福敏が前記第二回の公判に際し被告人のためにも有利な辯論をした旨の記載があるが、被告人が同人を辯護人に選任した辯護人選任屆も、原審の裁判長が職權で同人を被告人の辯護人に附けたことが認められる書面も記録中にはないのであるから同人は本件の被告人の辯護人ではないこと所論のとおりである。されば、原審は刑事訴訟法第四一〇條第一〇號に規定する法律により辯護人を要する事件について辯護人の出頭することなくして審理をしたものであるから辯護人佐藤六郎の上告趣意は理由がある。(その他の判決理由は省略する。)
よって、刑事訴訟法第四四七條第四四八條ノ二に從い原判決を破毀して本件を原裁判所へ差戻すべきものと認め主文のとおり判決する。
以上は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)